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炉工学

 

炉工学

炉工学

超伝導マグネット開発研究

核融合炉工学の分野では、核融合炉の2つの重要な構成要素、高磁場生成のための超伝導マグネットシステムと、発電、燃料増殖の機能を担うブランケットシステムの基礎、応用、開発研究を行っています。高温、高熱負荷、大電流等の極限状態における先端技術開発を通して、核融合炉以外の幅広い分野への応用を視野に入れた学際的な研究教育を展開しています。

ヘリカル型核融合エネルギー炉のシステム設計に関する研究については、国内および国際共同研究を通じて、将来のヘリカル型核融合エネルギー実証炉の設計研究を強力に推進しています。具体的には、核融合炉システム設計、ヘリカル磁場配位の最適設計、超伝道マグネットシステムの工学設計、電磁力支持構造物の工学設計、ブランケットの工学設計、など多岐に渡り、いずれも、学術的に最先端の研究内容となっています。

ヘリカル型核融合エネルギー実証炉

ヘリカル型核融合エネルギー実証炉

超伝導・低温工学研究

磁場核融合装置に必須である大型・高性能の超伝導マグネットシステムのために必要となる基礎研究や応用研究を行っています。LHDは、世界最大の超伝導マグネット・低温システムを有しており、プラズマ実験のために連続した安定な磁場を供給しているだけでなく、装置工学実験を遂行することによって、その性能をさらに向上させてきています。また、研究所では、将来のヘリカル型核融合エネルギー実証炉の設計活動を進め、その巨大な超伝導マグネット・低温システムの設計に取り組んでいます。より高性能な超伝導コイルと高効率の低温技術をめざし、次世代の超伝導材料や線材、大電流容量導体を研究開発するとともに、コイルの巻線技術、冷却技術、電源技術、等に関して、幅広い基礎研究や応用研究を行っています。これらの技術には、核融合炉以外の応用も視野に入れて研究が行われています。

LHDを用いた装置工学研究

LHDを実際に用いた装置工学実験を行い、LHDの超伝導マグネット・低温システムの特性について詳細に研究することで、核融合炉用大型システムに必要な設計条件を最適化する研究を行っています。また、超伝導マグネット研究棟や総合工学実験棟における実験装置を利用して、超伝導導体やコイルの実験、要素開発研究などを行って、LHDの超伝道マグネット・低温システムのさらなる性能向上にも努めています。

サブクール・コイルの上で

サブクール・コイルの上で

核融合炉用超伝導マグネットに用いる大型導体の開発研究、導体特性や電磁現象等に関する研究

核融合炉の大規模超伝導マグネットシステムには100 kA級の大電流先進超伝導導体が要求されます。そこで、金属系低温超伝導材料であるNbAlや、酸化物系高温超伝導材料のY系やBi系などの線材を最適に組み合わせた大電流導体の設計研究を行っています。また、導体設計をもとに実際に短尺導体サンプルを試作し、通電試験を行うことでその特性を詳細に調べます。線材や導体には、超伝導材料と周囲に用いられる常伝導金属の双方においてさまざまな電磁現象が現れます。これらを詳細に研究することは優れた導体開発を行なっていくうえで欠かせません。併せて、大型超伝導導体では、冷却安定性と常電播現象に関する研究が安全な通電を行なうために重要な課題となっています。

各種の大型超伝導導体(左)強制冷却ケーブル・イン・コンジット方式NbTi導体(中)間接冷却方式Nb3Sn導体(右)間接冷却方式酸化物系高温超伝導導体

各種の大型超伝導導体
(左)強制冷却ケーブル・イン・コンジット方式NbTi導体
(中)間接冷却方式Nb3Sn導体
(右)間接冷却方式酸化物系高温超伝導導体

先進的な超伝導材料と長尺線材開発のための基礎研究

核融合炉の超伝導コイルに用いられる線材の超伝導材料に関して、更なる特性向上をめざした基礎研究が重要な課題となっています。また、これらの材料を用いて長尺線材を作るための応用研究が不可欠です。

核融合研で開発されている低放射化超伝導線材の例 (左)V3Ga線材 (右)MgB2線材

核融合炉マグネットにおける巨大な電磁力支持構造物や大型導体の機械・材料特性に関する研究、大型超伝導コイルの製作方法に関する開発・設計研究

核融合装置の大型超伝導コイルでは、巻線導体やコイル容器に巨大な電磁が印加されます。電磁力によって材料にかかる応力を正確に評価し、いかに安全に支持するかは極めて重要な研究課題です。特に、核融合炉では装置の軽量化も必須の課題であり、最適設計が求められます。合わせて、大型の超伝導コイルをいかにして巻線・製作するかという工学設計も重要な研究課題となっています。

中性子環境下における超伝導材料の特性研究

核融合反応によってプラズマ中で生じた高速中性子は、超伝導コイルの内側に置かれた厚いブランケットによって、約10万分の1まで強度が弱められます。しかしながら、最低でも約30年と考えられている核融合炉の運転期間中に微量の中性子が超伝導コイルに当たり続けると、その特性が変化してしまうことが懸念されています。そこで、中性子環境下における超伝導コイル用材料の特性を研究するとともに、中性子環境下における使用に適した新しい先進超伝導材料やコイルシステムの開発を進めています。

大型ヘリウム冷凍機やサブクールシステム、 先進的な小型冷凍機の技術開発に関する研究

核融合炉の巨大なマグネットを冷却するためには、現在までに開発されている大規模なヘリウム液化冷凍機をさらに性能向上させることが要求され、既存技術の深化が重要な課題となっています。このために、計算機シミュレータを構築することなども重要な研究テーマとなっています。併せて、低温における物性に関する研究や、超流動ヘリウムやサブクールヘリウムの物性・熱輸送に関する研究なども興味深いテーマとして進めています。
一方、超伝導技術を民生応用としてさらに発展させるためには、効率の良い冷却技術の開発が求められています。このために、先進的なパルスチューブ冷凍機の開発も進めています。

LHDに用いられているヘリウム液化冷凍システム(国内最大)

LHDに用いられているヘリウム液化冷凍システム(国内最大)

先進のパルスチューブ冷凍機を組み込んだ2kA級電流リード

先進のパルスチューブ冷凍機を組み込んだ2kA級電流リード

レーザー核融合のためのクライオターゲットの開発に関する研究、および、低温物性に関する研究

レーザーを用いた慣性核融合の爆縮用ターゲットとして、燃料となる水素を極低温で氷らせたクライオターゲットの開発研究を行なっています。均質なターゲットをいかに効率良く生成するか、低温物性研究を駆使した最先端の応用研究となっています。

レーザー核融合用クライオターゲット

レーザー核融合用クライオターゲット

大型超伝導コイルシステムのための電源制御システムに関する研究

核融合装置の大規模超伝導コイルシステムには外部から電源によって大電流が供給されます。特にヘリカル型装置における超伝導コイル群は、電磁的に密に結合しているため、各コイルの電流値を精密に、かつ、高速に制御することは重要です。このために、最新の制御理論を駆使した電源制御システムの構築が研究課題となっています。

大型超伝導コイル・低温システムの産業応用に関する研究

超伝導コイルシステムは核融合だけでなく、幅広く電力機器への応用を視野に入れて開発研究を行なっています。当グループでは、水素併給型超伝導送電ケーブルや超伝導エネルギー貯蔵装置の開発研究などについても、積極的に取り組んでいます。また、先進的な冷凍機技術と関連して、環境に優しい熱音響エンジンの開発研究も行なっています。

水素併給型超伝導送電ケーブル

水素併給型超伝導送電ケーブル

1MJ級超伝導エネルギー貯蔵装置(SMES)

1MJ級超伝導エネルギー貯蔵装置(SMES)

熱音響エンジンの実験装置

熱音響エンジンの実験装置

先進ブランケット開発研究

核融合炉では、炉心の外側をブランケットと呼ばれる構造物で覆い、このブランケットにより核融合反応で生じた中性子を熱エネルギーに変換し、発電を行ないます。溶融塩や液体金属を冷却材兼燃料増殖材に用いる超寿命型の先進ブランケットに関する学術研究をしています。

核融合炉ブランケットシステムのニュートロニクス評価

ブランケットには、炉心プラズマで発生した高速中性子を受け止めて、「熱への変換」、「トリチウム燃料増殖」、「放射線遮蔽」を効率よく行うことが要求されます。そのために最適な材料の組み合わせや配置、ヘリカル型発電炉に適したブランケット形状等の研究を中性子輸送計算により進めます。また、日本原子力研究開発機構との共同研究により、高速中性子照射による設計検証実験を進めます。

(左)核融合炉の炉心の中性子分布を計算する為のモデリング(右)炉心の中性子分布計算結果

(左)核融合炉の炉心の中性子分布を計算する為のモデリング
(右)炉心の中性子分布計算結果

炉材料の開発研究

ブランケットに用いる構造材には、中性子照射によって生じる誘導放射能の減衰が速い材料(低放射化材料)を用いる必要があり、代表的な候補材であるバナジウム合金の開発に取り組んでいます。低放射化バナジウム合金共通材料(NIFS-HEAT、NIFS-HEAT2)を製作し、大学と協力してその特性評価とコンポーネント開発に向けた試作研究、特性の更なる改良に向けた基礎研究などを進めています。

(左)低放射化構造材料のNIFS-HEAT-2の166kgのインゴット (中)高温における材料の強度を評価可能なクリープ試験機 (右)実験中の様子

(左)低放射化構造材料のNIFS-HEAT-2の166kgのインゴット
(中)高温における材料の強度を評価可能なクリープ試験機
(右)実験中の様子

液体ブランケットの材料共存性に関する研究

ブランケットの自己冷却型とリチウム増殖材として期待されている溶融塩フリーベ(LiF-BeF2)や液体金属リチウム(Li)中の材料腐食現象を明らかにする為に、高温における共存性試験や強制流動型腐食試験用装置の要素技術研究・設計研究を進めています。

(左上)フェライト鋼製の腐食試験用自然対流ループ (右上)溶融塩中へ低放射化フェライト鋼JLF-1(9Cr-2W) を浸漬した結果 (下)実験装置の前で

(左上)フェライト鋼製の腐食試験用自然対流ループ
(右上)溶融塩中へ低放射化フェライト鋼JLF-1(9Cr-2W) を浸漬した結果
(下)実験装置の前で

ブランケットにおける機能性材料に関する研究

液体ブランケットシステムにおいて、高磁場で流動させた場合に磁気流体力学(MHD)的効果により、流動を妨げる圧力損失が生じます。また化学的なプロセスにより、材料腐食が生じたりします。これを抑制するために、セラミックス絶縁被覆材料の開発を行っています。また、ブランケットの中を流れる溶融塩や液体金属中の燃料ガスの濃度を、固体電解質セラミックスセンサを用いて測定することに挑戦しています。

(左)基盤上へセラミックスの薄膜を形成するための有機金属気相成長法 (右)プロトン導電性固体電解質を応用した水素センサー

(左)基盤上へセラミックスの薄膜を形成するための有機金属気相成長法
(右)プロトン導電性固体電解質を応用した水素センサー

放射線・安全工学

磁場核融合実験施設における安全、とりわけ放射線安全に関する研究を行ないます。磁場核融合装置が社会に受容されるには、放射線安全に関する研究の展開が不可欠です。将来の核融合炉ではトリチウムを燃料とし、核融合反応に起因して中性子線が発生します。発生した中性子線によって装置や周辺機器が放射化されます。このような状況で、水素同位体の回収・濃縮と環境負荷低減、作業環境における線量計測と放射線防護、電磁場環境の安全評価、施設周辺の環境影響評価、そしてシステム安全設計が研究課題として挙げられます。これらの課題は、核融合科学研究所で行われている重水素プラズマ実験における放射線安全とも関連しています。

放射化作業環境における放射線防護に関する研究

意義

核融合反応の結果生じた中性子は、装置や周辺機器を放射化します。放射化によって作業環境に放射線源が分布することになります。作業計画を立てるにあたって、線源の時間的空間的な変化を把握する必要があります。

具体的な進め方

線源分布の把握は、計算による予測と測定によって行います。放射化の状況を放射線輸送計算によって導き出し、それを線源として線量分布を算出します。測定では、遠隔にある放射線源分布の可視化装置の開発も進めます。計算と測定の両面の結果を用いて、放射線防護計画を策定します。

水素同位体の回収・分離に関する研究

意義

将来の核融合炉では、水素同位体が燃料として使用されます。この水素同位体を回収し、同位体を分離、再利用する「燃料サイクルシステム」を構築することは、核融合炉の実現に向けて、重要な課題です。

具体的な進め方

水素同位体の回収方法として、酸化吸着法、膜分離法を研究しています。一例として、電気化学反応により水素を選択的に透過する高温型固体電解質膜を用いて、不純物ガス中から水素同位体を回収する手法を開発しています。比較的大型の試料を用いて、水素同位体の回収特性の把握、ならびに電極などを工夫して性能の改善を目指しています。実験は、名古屋大学 同位体分離実験室に設置された装置を用いて行われます。

(左)水素同位体ガス回収装置 (右)プロトン伝導性酸化物試料

(左)水素同位体ガス回収装置
(右)プロトン伝導性酸化物試料

水素同位体ガス処理用ハニカム型触媒・吸着剤の特性研究

意義

将来の核融合施設における安全問題として、燃料として用いるトリチウムの漏洩対策があります。先進的な漏洩トリチウム除去システムの開発に向け、圧力損失低減と大流量処理に適するハニカム型触媒・吸湿剤の基本性能を基礎的、体系的に調べる必要があります。

具体的な進め方

ハニカム材として使われているセラミックス系と金属系について、基材の製作方式や表面処理によって変わる特性変化をミクロ、マクロ的な視点から調べます。

トリチウム計測システムの開発研究

意義

核融合炉の燃料であるトリチウムの計量管理や施設内の安全管理、環境影響評価の観点から、トリチウム計測システムの開発は重要な研究課題です。トリチウム計測では、トリチウムが大量に存在する燃料サイクルシステムから、極々微量の環境レベルまで、20桁におよぶ範囲を計測対象としなければなりません。広範囲の濃度を計測するためには、トリチウムの物理化学特性を理解し、計測に応用することが必要です。

具体的な進め方

この研究では、低濃度のトリチウム計測を目的に、システム開発に取り組んでいます。方法の一つとして、電離作用を利用した検出システム開発を行っています。ここでは、トリチウムによるβ線の信号と、他の放射線や電気ノイズによる信号を、電気回路を工夫して波形弁別することを目指しています。トリチウムを用いた実験は、名古屋大学 同位体分離実験室を利用して実施します。

その他の主な研究テーマ

  • 核融合炉の放射線安全システム設計に関する研究
  • 磁場核融合実験施設における電気安全・システム安全に関する研究
  • 磁場核融合実験施設の電磁場環境と安全に関する研究
  • 先進的な放射線監視システムの開発研究
  • 放射線遮へい解析に関する研究
  • トリチウムの安全取扱い技術に関する研究開発
  • 環境モニタリング設計に関する研究
  • 環境中トリチウム挙動に関する基礎研究
  • トリチウムを含む有機物試料の迅速処理に関する開発研究
  • 核融合システム内の水素同位体挙動に関する研究
  • マイクロ波によるトリチウム回収用吸湿剤の再生処理研究
  • 大気圧プラズマジェットを利用した水素化合物の燃焼研究

核融合から21世紀の産業技術へ

核融合科学研究所では、これまでに培った大電力マイクロ波技術を基礎として、マイクロ波の電場と磁場が物質を構成する原子分子の内部にある電子に直接働きかけることを見いだしました。この原理を使うと、水やセラミックスなど非導電性の物質だけでなく、金属であっても粉末、つまり不連続体ならば、マイクロ波で効率よく加熱できることを明らかにしました。外部からの熱に依らない物質の創成と新しい加工技術の誕生です。
これまで人類が1万年にわたって使ってきた「炎」という古典的手段に対し、物質の電子構造に直接働きかけるというマイクロ波は、各国の研究者や産業界の注目を集めています。

マイクロ波によるセラミックスの焼成

長年に渡る地元との共同研究によって、マイクロ波を用いた陶磁器焼成の工業化に世界で初めて成功しました。この研究は、現在、地元の中部地区だけでなく、全国の企業・研究機関・大学との共同研究に発展しています。マイクロ波焼結の迅速性により、窯業におけるエネルギー消費を数分の一に低減でき、地球環境の保全に役立つと期待されています。また、国立天文台との共同研究によって、大型望遠鏡の高度な光学技術と結合させて、新しいゼロ膨張セラミックスを開発することに成功しました。これは、半導体製造などにおける革新技術として産業界の注目を集めています。

世界最大級17?のマイクロ波焼成炉(最大マイクロ波電力100kW、焼成温度1600度以上)

世界最大級17m³のマイクロ波焼成炉(最大マイクロ波電力100kW、焼成温度1600度以上)

燃料価格の高騰を克服する切り札と期待されるマイクロ波・天然ガス複合炉を地元と共同で開発

燃料価格の高騰を克服する切り札と期待されるマイクロ波・天然ガス複合炉を地元と共同で開発

焼成直前のゼロ拡張セラミックス

焼成直前のゼロ拡張セラミックス

マイクロ波による鉄の精錬

東京工業大学と核融合科学研究所の共同研究によって、鉄鉱石と石炭の混合粉末にマイクロ波を照射して銑鉄を作ることに成功しました。昇温と還元のエネルギーをマイクロ波の電磁場エネルギーで供給しますので、供給炭素量を1/2にすることができ、全産業比として炭素ガス排出量を4%削減できると期待できます。また、この方法によって得られた銑鉄は、不純物濃度が通常の高炉から得られる銑鉄の1/10という高品質なものでした。

マイクロ波加熱中の顕微鏡画像(世界初)加熱されるスポットは周囲より高温になっており、時間とともに移動していく

マイクロ波加熱中の顕微鏡画像(世界初)加熱されるスポットは周囲より高温になっており、時間とともに移動していく