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専攻の紹介

 

専攻長あいさつ

専攻長 吉田善章2021年4月

かつて知の探究者たちは自らのことを philosopher だと思っていました。知を愛する者という意味です。philosophyを日本語では「哲学」と訳すので、いささかニュアンスが変わってしまうのですが、例えば今でいう自然科学は自然哲学と呼ばれていました。物理学も自然に関する哲学でした(ニュートンの『プリンキピア』は正確には『自然哲学の数学的方法』 Philosophiæ Naturalis Principia Mathematicaという題名です)。私は、学生の皆さんに哲学を学ぶために大学院へ来てほしいと思っています。近年では哲学 philosophy という言葉は科学science という言葉で置き換えられることが多いのですが、皆さんが目指している学位 PhD (Philosophiæ Doctor) にしっかりとその名をとどめています。

学問を「科学」というときは「体系」が強調され、その結果として専門分野への分岐が進んできました。最近では、哲学を語るのは哲学者という「専門家」だけになってきましたが、それは専門性だけを重んじる社会の風潮を反映しているように思われます。もちろん皆さんは卒業に向けて、学んだことを職業とするために、専門性を身につける必要があります。しかし、それだけではなく、ぜひこの貴重な時間を哲学のために使ってください。

核融合科学は、さまざまな科学と技術を束ねる総合的な学問です。しかし、まだ体系といえるような構造を確立していない、未知の領域へチャレンジしている生きた学問です。これに参加しようとしている皆さんは、科学も技術も分けて考えてはいけません。物理もあらゆる分野にまたがります。古典力学も量子力学も熱力学・統計力学も場の理論も必要です。どこかで切り分けて、そこさえ押さえておけば良いという分野学ではありません。実験のためには、真空も極低温も超高温も高電圧も高周波も、あらゆる技術を駆使します。これらを修めるためには、知に対する愛によって生まれる飽くなき探求心が必要です。まさしく哲学する心をもってもらいたいのです。

核融合科学専攻では、多くの専門家たちが教員として皆さんを導いてくれると思います。その教員たちも、専門家である前に知を愛する人たちです。ただ研究の方法を学ぶだけでなく、何をどう研究するのかというところから考える力を身につけてください。この専攻で学んだ皆さんが、将来、私たちが知らなかった新しい世界を見せてくれること期待しています。

沿革、組織

昭和63年10月 総合研究大学院大学 開学
平成元年5月 核融合科学研究所 設立(名古屋市千種区)
平成4年4月 数物科学研究科 核融合科学専攻 を設置
初代専攻長 飯吉厚夫 就任
平成9年7月 岐阜県土岐市へ移転
平成9年12月 大型ヘリカル装置(LHD)完成
平成11年4月 2代専攻長 藤原正巳 就任
平成15年4月 3代専攻長 本島 修 就任
平成16年4月 国立大学法人 総合研究大学院大学 発足
物理科学研究科 核融合科学専攻 に改組
平成18年4月 5年一貫制博士課程を導入
平成21年4月 4代専攻長 小森彰夫 就任
平成27年4月 5代専攻長 竹入康彦 就任
令和3年4月 6代専攻長 吉田善章 就任

組織図

組織図

先端学術院先端学術専攻(仮称)20コース体制

総研大は、6研究科20専攻の体制から、先端学術院先端学術専攻(仮称)20コース体制へ2023年4月に移行する検討を開始しました。これにより、高い専門性を持った大学共同利用機関等研究所(基盤機関)の教育リソースを柔軟に構築できる体制を整備し、複合的・融合的な課題に取り組む次代の研究者育成を目指します。

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総合研究大学院大学とは?

総研大

総合研究大学院大学は、大学共同利用機関を活用し、幅広い視野を持った国際的で独創性豊かな研究者の養成と、従来の学問分野の枠を超えた独創的学術研究の開拓・推進を目指して、1988年に我が国最初の大学院大学として創設されました。

神奈川県葉山町に大学本部を持ち、全国各地に置かれた、人文系から自然科学系にわたる基盤機関に大学院生を分散配置し、ユニークな博士課程教育を展開しています。

新しい時代のエネルギー源としての核融合の開発に向けて、その科学的・技術的開発研究を充実・発展させていくためには、大型の核融合実験装置を用いた、燃焼条件に近い高温プラズマの実験的研究及び炉心プラズマのような超高温プラズマの複雑な振る舞いを解析する理論的研究の並列的推進が不可欠です。核融合科学専攻では、核融合科学の総合的推進を目指して、核融合プラズマ及び炉の開発に必要な種々の先端科学技術分野の有機的な関連を重視した実験に関する組織的な教育研究と、核融合プラズマ中諸過程の物理機構の解明を目指して、特にスーパーコンピュータを駆使しての理論シミュレーション研究を中心とした教育研究を行うことを目的としています。

核融合研究は、多くの専門分野を包括した学際的な研究であるため、本専攻には、プラズマ物理学、原子物理学、電気工学、機械工学、超伝導工学、材料工学、真空工学、情報工学など理論と実験にまたがる幅広い分野を専門とする教官がそろっており、核融合を軸としながら、現代理工学の幅広い基礎を修得できるところに本専攻の特色があります。
実験関係では、試作開発用実験装置に焦点をしぼった基礎研究と大型ヘリカル装置での複合事象とを結ぶ研究を通じて、分析と統合という研究活動の基本を学ぶことができます。また、理論関係では、スーパーコンピュータと最新鋭の三次元カラーグラフィック装置を駆使したシミュレーション研究を実地に体験しながらプラズマと核融合の理論を修得することができます。

核融合研究最前線

未来をつくる究極のエネルギー

宇宙に輝くすべての星は、核融合エネルギーを源としています。地球上で核融合エネルギーを実現し、安全で環境適合性が高く、原料が無尽蔵の究極のエネルギー源を得ることは、人類恒久の課題です。 核融合エネルギーは、従来型の化石エネルギーや原子力発電、あるいは将来の実現をめざした他の新エネルギー源と比較し、次のような利点と問題点があります。

  • 利点

    • 燃料が海水から得られるため、地球上では無尽蔵で、かつ地域偏在していない。
    • エネルギー発生時に環境負荷の大きな二酸化炭素や大気汚染物質を多く出さない。
    • エネルギー出力密度が高く、中央発電所からの高効率の供給が可能。
    • 燃料の炉内貯留量が少なく、また高レベル放射性物質を生じない為、本質的に安全である。
  • 問題点

    • 燃料を高温、高密度の状態で長時間閉じ込める必要があり、技術的に未解決課題が多い。
    • 実現にむけた研究開発には長年にわたる大型装置での実験が必要であり、継続的な人材および資金の投入が必要となる。

現在は、これらの問題点を努力により克服してきており、約30年後の近い将来に核融合エネルギーの実現を見通せる状況になってきました。

世界の核融合研究

現在、ヘリカル型やトカマク型と呼ばれる磁場中にプラズマを浮かせて閉じ込める「磁場閉じ込め方式」、および高強度レーザーを用いて短時間に高密度のプラズマを発生させる「慣性閉じ込め方式」を中心に、世界各国で核融合研究が活発に進められています。核融合科学研究所では、大型ヘリカル装置(LHD:Large Helical Device)を用いた実験研究を中心に、様々な視点から核融合研究に取り組んでいます。ヘリカル型は日本発祥の方式で、ドイツ・スペイン・オーストラリア等でも盛んに研究されています。慣性閉じ込め方式は、米国で推進されてきたほか、日本でもユニークな研究成果が多く挙げられています。トカマク型は現在の核融合研究の主流であり、日本、米国、ヨーロッパ各国の他、最近では中国や韓国に大型の装置が建設されています。

  • ヘリカル方式
  • トカマク方式

TOPIC国際熱核融合実験炉(ITER)

  • ITER
  • 核融合プラズマは、その体積が大きいほど閉じ込めに有利であり、研究の進展に伴って実験装置が大きく、高コストになってゆく宿命を背負っています。また、ブランケットやダイバータ等、各種の炉構成機器の開発も必要となってゆきます。そこで、国際協力により総合的な実験炉を建設する計画が進められています。この炉を国際熱核融合実験炉(ITER)と言います。参加国は、日本、欧州連合、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極で、総事業費として約1兆3千億円をかけ、2020年頃から約20年間の運転を目指して、現在、フランスのカダラッシュに建設中です。また、建設期の約10年間には日本において「幅広い活動」という位置付けで、材料試験、シミュレーション、トカマク実験等が展開されます。核融合科学研究所においても、ITER連携研究部門を窓口とし、ITERプロジェクトと協力体制をとって研究を進めています。

    1985年に発足したITER計画がいよいよ本格的に動き出しました。この計画は所謂ビッグサイエンスの典型であり、人類の未来のために取り組むべき課題として、巨額の研究資源が投入されるプロジェクトです。世界中の大学院生や若手研究者を対象とした「ITERサマースクール」も開催されており、このスクールへの参加などを通じて、ITERを身近に感じる機会も多くなっていくことでしょう。

核融合科学専攻案内