私は「核融合炉先進材料バナジウム合金の試験片製作と評価実験」という課題に参加いたしました。核融合はその特性上、炉内の温度は数億度に達するほどで、超高温・超高圧に耐えられるだけの材料がその実用化には不可欠です。更にはその構造材料自体が中性子を吸収し放射性物質になるのですが、その放射性物質の大部分が数年以内には自然消滅することも、エコロジーの観点から求められています。そんな中で今、核融合炉の材料の主役として期待されているのがバナジウムです。バナジウムは高融点金属であり、地球上に豊富に存在しています。このバナジウムにクロムとチタンを添加することで、材料の強度と柔らかさという二つのパラメタを一層上げようと試みています。
今回の研究体験では、まず様々なバナジウムークロムーチタンの重量比からなる試料片の中から、一番強度も柔らかさも高そうなものを各自選択しました。試料のリストを見て、他の元素の影響も勿論無視できないだろうが、まずは酸素が不純物として含まれていると硬さや柔らかさに悪影響を及ぼすのではないかと判断した私は、酸素の含有量の少ないものを選択しました。そしてその試料片を圧延し、打ち抜き機を用いて引っ張り試験片を作成したのち、一部の試験片は真空イメージ炉を用いて1000℃で熱処理を行いました。そののち、引っ張り試験と硬さ試験を行うことで、組成比の違いや熱処理の有無が、材料の特性にどう影響するのかを考察していきました。実験に参加したもう一人の方は、私と同じく酸素の含有量が少ない試験片を選択していたのですが、私よりもクロムの組成比が大きいものでした。すると圧延したままの互いの試験片を比較したところ、私が選んだ試験片の方がより柔らかさをもっていると分かりました。しかしその一方で、熱処理を施したものを比較すると、なんと逆にもう一人の方が引っ張りに強い試験片だと判明しました。つまり私の選んだ試験片は、作成時には確かに引張には強いかもしれないが、装置として高熱に晒されるとその特性が急激に失われる可能性があるのではないかと考察できました。組成比のみならず熱処理の有無によって、材料の性能がここまで多様に変化する様子に圧倒されました。
実験中、長坂先生が装置の使い方をご教示くださいました。装置のどこに何があるおかげで、何を調べることが出来るのかを丁寧に教えてくださり、装置に「使われる」ことなく、自分のやりたいことを調べるために装置を操っているという感覚をもてました。素材開発は細やかな作業の上に成り立つ試行錯誤の連続で、時に途方もないと感じたと同時に、エネルギー問題を解決する夢の技術である核融合の実現の一端に関わることが出来ていることへの興奮も覚えました。「核融合によりエネルギー問題を解決させ、世界平和を目指したい」―先生は最後にそう仰いました。私自身、ようやく専門課程に進学し自分の道を決めていく時期なのですが、自分の一生を捧げたい研究テーマを見つけたいと強く感じました。そしてそうした大きな夢の為に、地道で「退屈」に見えるかもしれない基礎学理を、深く丁寧に身に着けていく必要性も痛切に実感できました。前期課程の最後にこのプログラムに参加させていただいたことは、私の今後の進路において非常に意義深いものでした。長坂先生をはじめ、TAの皆様、大学院連携係の皆様、ありがとうございました。