この度は総研大・核融合科学専攻の夏の体験入学に参加させて頂き,ありがとうございました.自分が想像していたことよりも多くの学生が全国から参加しており,さまざまな話ができ,とても有意義な時間でした.担当教員の先生をはじめ,所内の先生方が温かな雰囲気で迎えてくれたこともあり,日常会話から研究に関する質問まで気軽にすることができました.
今回,私が参加させて頂いた課題は,電子ビームイオントラップ(CoBIT) を用いた多価イオンの分光実験でした.タングステンに電子ビームを入射し,タングステンをイオン化させてトラップします.トラップされた多価イオンから放射されるスペクトルを測定し,スペクトル構造について考察する内容でした.これらに加えて,衝突輻射モデル(CRM) を用いて理論計算し,実験結果から得られた発光スペクトルと比較しました.
タングステンは融点が非常に高く,核融合炉内(ITER のダイバーター) の材料に適しています.しかしながら,スパッタリングにより高温プラズマ内にタングステンが混入してしまい,イオン化されてしまうので,タングステンの発光を研究する必要があります.タングステンを熱により気化させるのは難しいので,タングステンにカルボニル基が付いたタングステンカルボニル(W(CO)6) を粉末にしたものをCoBIT 内に封入し,放射スペクトルを測定しました.W(CO)6 には常温で蒸気圧があり,真空容器内に入れると昇華されてタングステンのガスを作ることができることに驚きました.W(CO)6を導入する量を細かく調整し,最大価数イオンからの発光が見えるようになる最適な量をスペクトルを見ながら時間をかけて何度も探し,綺麗なスペクトルを得られたことが嬉しく,強く印象に残っています.このスペクトルを,CRM コードと言われる波長に対するエミッシビティを計算するコードで計算し,実験で得た発光スペクトルの遷移,価数を同定しました.その中に禁制遷移による発光が実験,計算の両方に強く現れたことにとても驚きました.
主に加藤先生と坂上先生にアドバイスを頂きながら,班の3人で夜遅くまで結果をまとめ,ポスターを作っていた時間も忘れられません.発表では結果に興味を持った方達が多く来てくれ,嬉しかったのと同時に,分からない人に分かるように伝えることの難しさを知りました.
体験入学の1週間は本当にあっという間でした.課題に関する質問,自分の大学で行なっている研究に関する質問にも一緒に考え,教えて頂いた先生方,班の皆に感謝しています.5 日間,本当にありがとうございました.